HIDABITO.jp

生きもの相手に近道なし
厳密な管理と実直な仕事が
質の高い飛騨牛を生む

HIDABITO 014
---有限会社若田ファーム
---若田 貴男氏

当たり前のことを、当たり前に続ける
私がやっているのはそれだけです

高山駅近辺からレンタカーで40分ほども走ると、景色はすっかり変わり、すっかり山に囲まれたのどかな風景が広った。それにも関わらず、頭の中では前日の取材後に食べた、飛騨牛の旨さがリフレインしていた。その時は寿司だったのだが、豊潤で甘味のある脂身が溶け出してシャリに絡みつくさまは、もう、官能的だと言ってもいい。

いや、今日は肉ではなく牛の取材なんだぞ、と己に言い聞かせて欲望を食欲から好奇心へとシフトチェンジさせる。辺りに牛舎がちらほら見え始め車が減速し始めた時、視界の端から男性が小走りでこちらにやってた。

HIDABITO2016夏_有限会社若田ファーム14_1

「あー、ちょっとそこ、そこで停まってください!今防護服持ってきますからね!」

言われるまま牛舎に向かう小路の手前でぼうっと待っていると、足の先から頭まで、しっかりと覆うことのできる防護服とゴム長靴を持ってきてくれたのが、今日の取材対象者である有限会社若田ファームの若田貴男さんだ。しかしこの装備、食品加工工場に入るわけではなく、牛舎に入るためのものなのだ。

「数年前に宮崎で話題になっていた、口蹄疫って病気覚えています?あれはものすごく感染しやすいんです。罹ってしまったら殺処分をするしかない。だから飛騨牛を育てている畜産農家では、こうして外部の方が入る時は必ず防護服を着てもらっているんです」

HIDABITO2016夏_有限会社若田ファーム14_2

そう申し訳なさそうに、でも真剣な眼差しで教えてくれた若田さん。飛騨牛というブランドを守る確固たるルールに、思わず背筋が伸びた。いよいよ完全防備となったので、消毒を施した後、ゆっくりと牛舎に入る。思いの外静かだが、たくさんの牛たちがつぶらな瞳でこちらを見つめてくる。

そもそも飛騨牛というブランド牛には明確な定義がある。飛騨牛銘柄推進協議会による「登録農家制度に認定・登録された生産農家」が育てた牛のうち、「最長飼育期間が岐阜県」であり、かつ「岐阜県内で14ヶ月以上肥育」をされたものであること。その中でも「日本食肉格付協会の枝肉の基準で肉質等級が3等級以上」だと飛騨牛銘柄推進協議会事務局が確認し、認定した「黒毛和種」のみ、飛騨牛を名乗ることできるのだ。

「もともとは、関の孫六牛や揖斐牛など地域の名前がついた牛がおったんですが、一度岐阜牛に名前が統一されたんですね。その後、肉質を改良しようという動きが起こって、飛騨牛が生まれたんです。そのきっかけになったのが、兵庫県からやってきた安福号という素晴らしい牛でした」