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陣屋前朝市で50年
生産農家の自家製漬物は
国境を越えた母の味

HIDABITO 012
平田正仁店
平田 法子氏

意外もしれませんが、飛騨といえば魚が旨いんです

形は変わっても、お客さんと向き合って、
買ってもらうのが楽しいの

観光客にとって、高山の夜は魅力的なものだ。飛騨牛や、朴葉みそ、ブリ街道を渡ってきた季節ごとの鮮魚たち。ついつい久寿玉や山車などの地酒が進んでしまうのも無理もないが、深酒は禁物だ。高山は、こと観光客には朝寝を許してくれない。寝過ごして後悔するには、あまりにもったいない朝市がここにはあるからだ。

飛騨高山には、千葉県勝浦市、石川県輪島市に並ぶ日本三大朝市の町としての顔がある。さらに、「高山祭」と「古い町並」に並ぶ高山観光三大名物の1つにも数えられるほど、朝市は風物詩としても有名だ。

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そのルーツは1820年頃、高山別院を中心に開かれていた桑市にまでさかのぼる。その後、養蚕業の衰退から、明治27 年あたりを境に自作の農作物や生花などを販売する参加者が増え始めた。それが場所を変えながらも、現代まで脈々と受け継がれているのだ。

現在開催されているのは、鍛冶橋から弥生橋までの宮川沿いを拠点とする宮川朝市と、高山陣屋前の広場での陣屋前朝市の2つ。いずれも毎日朝6時から開催されている、歴史深い高山の朝の顔だ。

「はい、どうぞ見ていってね。漬物は私の手作り。味見だけでもしていってくださいよ。ほら、気軽に食べてって」

午前7時。すでに観光客で賑々しい陣屋前朝市の会場をぶらつく取材班に、にこやかに声をかけてくれたのが平田正仁店の屋号を持つ、平田法子さん。テント内には「のりこばあちゃんのお店」と看板が置かれており、目にも鮮やかな漬物と米や雑貨などが、軒を目一杯に並べられている。漬物だけでもその数約20種類。どれも試食をできるのが、うれしいところだ。

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「うちは代々ずっと農家でね、米も野菜もたくさんつくっていましたよ。昔はね、全部手作業だから人でそりゃ大変でねえ。今は色々機械でできるから、なんとか息子が頑張ってます。今は息子と私のふたりだけ。私は漬物や雑貨をつくって、朝市で売る係なの。昭和30年から、ずっと出てます。」

いくら機械化されたと言っても、朝市が毎日あることには変わらない。そのためのりこさんの1日は早い。朝は3時に起床。それからすぐに掃除や洗濯、朝食の準備などの家事を全て済ませ、朝市に。11時半まで漬物を売り、家に帰ると今度は明日の朝市の準備。夕方あたりに商品の袋詰を終えると、やっと1日が終わるのだ。想像以上の働きぶりに、思わず頭が下がる。