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陣屋前朝市で50年
生産農家の自家製漬物は
国境を越えた母の味

HIDABITO 012
平田正仁店
平田 法子氏

取材
社名:
飛騨高山陣屋前朝市 平田正仁店
住所:
岐阜県高山市八軒町1-5
電話:
0577-32-3333

「トマトやほうれん草なんかは、冬にやってる農家もあるけど、うちは昔ながらのやり方だから、動き出すのは春からやね。春に美味しいのは、菜の花と山菜。春は田植えが忙しいから、畑はあまりかまっていられんのよね。だから山菜を使ったりします」

山からいただいた春の恵みは、シンプルに塩で漬け込むのだという。特におすすめはと聞くと「菜の花、山ウド、ワラビ、カブ、あとここらでよく食べるこれね」という答えとともに、試食用の皿を渡される。それを口に運ぶと、さくさくとした食感の後に山の香りが抜けていった。舌にわずかに残る酸味も、さわやかな味わいで心地いい。

「これはキクイモね。見た目は根生姜みたいな形。畑でつくるとジャガイモみたいに丸くなるけど、これは山から掘ってきたのでごつごつしてます。味噌や酒粕で漬けてもいいんだけど、せっかくの香りが負けちゃうから酢と醤油で漬けるのよ」

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聞けば漬物にはポピュラーな根菜で、飛騨で古くから食べられているカブやきのこ、ミョウガ、なす、きゅうり、とともに漬け込むその名も品漬には、必ずこのキクイモが入ると言う。普段目にしない野菜を、対面で知るということ。朝市の楽しさは、目や口だけでなく好奇心も満たしてくれる。

保存料を一切使わない、昔ながらのシンプルな味わいの漬物にはファンも多い。地元高山の人々はもちろん、東京や群馬、千葉などの関東圏から、名古屋や大阪、神戸の関西圏まで。通販をやるほど量がつくれないので、こうして朝市で販売してきた。

「昔はこんな屋根もなければ、地面も砂利道。その上にむしろを敷いて、直に野菜を並べて売ってました。区画も決まってなかったから、場所は取り合い。卵なんかは缶に籾糠を敷いて、朝とれたものを売ったりね。その時から比べたら、すごく変わりましたねえ。でもこうしてお客さんと向き合って、おしゃべりして買ってもらうのが楽しいの」

そんな時、ヨーロッパからと思しき女性観光客が試食していいかと、身ぶり手ぶりで尋ね始めた。するとのりこさんは片言ではあるが、英語で説明を始めたではないか。

これには女性も驚いており、思わず話が弾みだす。思わず微笑んでしまうような優しい空気が、ふいに立ち込めた。 時代とともに形は変わっても、品物をもとに言葉を交わし合う人々を照らす朝の光は、200年前と何ら変わっていないはずだ。

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取材
社名:
飛騨高山陣屋前朝市 平田正仁店
住所:
岐阜県高山市八軒町1-5
電話:
0577-32-3333