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段違いの香りは
半径5キロ圏内で栽培
海外評価も高い飛騨山椒

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有限会社飛騨山椒
内藤 一彦氏

「今まで食べた山椒はなんだったの?」
と言われるんです

冬にはあたり一面が白銀に包まれるも、春ともなればまったく異なる姿を見せてくれるここ奥飛騨。きん、と冷えた空気に耐えた後、花を開く桜の見どころは平地より1ヶ月遅い4月下旬。澄んだ空気に広がる花弁は、色鮮やかに少し遅い春の訪れを告げてくれる。

そんな奥飛騨の気候がもたらしてくれる恵みの一つに、名産品の飛騨山椒が挙げられる。飛騨牛などの名物に比べるとややイメージが薄いが、東京都内の老舗鰻屋・野田岩ほか、様々な飲食店で珍重される通好みの一品だ。取材時にも、ある都内の企業が飛騨山椒の噂を聞き、打ち合わせに訪れていた。「探し求めていた山椒にやっとたどり着くことができた」と笑顔で語ってくれた担当者の興奮が残る社屋で、取材はスタートした。

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「文献によると天領、つまり江戸幕府の直轄地となった関係で将軍に献上した、と記録されているようです。気候も山椒に合っていて、私たちのものはここから半径5キロ以内の限られた土地で採っています。それより遠くでは標高や寒暖差も変わってくるので、香りが違ってきてしまうんですよ」

飛騨山椒のルーツを教えてくれたのが、有限会社飛騨山椒の内藤一彦さん。建設需要の落込みが続いた10年ほど前、建設業界では新規事業を通じて雇用を維持しようという動きがあり、勤務している建設会社も山椒事業へ乗り出した。その流れの中で、昭和50年に叔父と叔母が、山椒を使った独自の商品を展開するために立ち上げたこの会社を引き継いだそう。幼い頃から自宅で山椒づくりの手伝いをしており、馴染みは昔からあるという。

飛騨山椒の特徴を尋ねると、「それはやっぱり香りと痺れですね。東京の展示会に出店すると『今までの山椒はなんだったの?』と感想をいただくこともありますし」と語りながら、試食のための商品を用意してくれた。

ミルで挽いたばかりの山椒を香ると、確かに勝手知ったるそれとは異なり、より青々としたフレッシュな香りが鼻腔をくすぐった。続けて、出されるがままに実の塩漬けを口にしてみる。小さなオリーブのような食感の実を前歯で割れば、清涼感とともにパンチの効いた痺れがやってきて、最後に独特ながらどこか馴染みのある味わいが追いかけてくる。しばし考えてみて気がついた。これは、柑橘類の味わいに近いのでは……。

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