完熟ドラゴンフルーツで目指すは
地域の新たな価値創造
HIDABITO 010
FURUSIC代表取締役
渡辺 祥二氏
僕がやっているのは農業だけじゃない、
新しい価値観の創造なんです
「ハウスの中って暑いから、喉が乾くでしょう? そんな時に食べるとなお美味しいんです。ほら、これが今の時期にとれるイエロードラゴンっていう品種。前にテレビの取材で来られたタレントさんが、『自費で払うからあといくつか食わせてくれ』って言ってくれたんですよ」
ハウスに入るなり、ドラゴンフルーツについて熱く語るFURUSIC 代表取締役の渡辺祥二さん。その、どこか外国人を思わせるフレンドリーなノリに身を任せていると、広いハウス内の中央に位置するテーブルセットに案内された。目の前でさっと黄色いドラゴンフルーツを切ってくれ、さあ食べてくれと言わんばかりにこちらを見つめている。
ドラゴンフルーツを食べるのは、初めてではなかった。ただし、決していい思い出ではない。都会のスーパーで見つけ、珍しいものを見つけたと喜々として帰宅した後に食べたそれは、うまいまずいというよりも、味のほとんどしない悲しく冷えた物体だった。
そんな苦い記憶が表情に現れていたのだろうか。渡辺さんの目が、いたずらっぽい含み笑いに変わったタイミングで、一口に頬張った。瞬間、過去の記憶をぶち壊すように、豊潤な甘味の洪水が口の中に広がる。虚を突かれながらも、味覚を整理するために咀嚼を続けると、なんともバランスのよい酸味が入り交じる。美味い。
「オレンジマンゴーのような贈答品でなく、家族のために買えるギリギリ」を目指したという価格は大ぶりなもので、2500円ほど。値段だけ聞いた時は高く感じたが、口にした今、決して高すぎるとは思えない。これは本当にドラゴンフルーツなのか、と思い目を見開いたところ、渡辺さんが口を開いた。
「想像したのと全然違って、すごく美味しいでしょう。これこそが、奥飛騨のドラゴンフルーツなんですよ!」
奥飛騨という寒冷地で、熱帯国原産のドラゴンフルーツを栽培していると聞いた時、最初は何かの間違いだと思った。しかし聞いてみると、当所の温泉熱はかねてから床暖房や融雪のためにこの地で大切に使われてきたらしい。このハウスでも温泉熱を活用して真水を温め、適正な温度に調節した後、地熱管理に利用されているそうだ。でもなぜ、ドラゴンフルーツなのだろう。