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標高2156m
日本の屋根から
山々の魅力を伝える

HIDABITO 004
新穂高ロープウェイ
和田 梢さん

ロープウェイでの移動は、さながら雲の上を目指す空中散歩のようだ。そして展望台にたどり着き、開けた景色を見た瞬間、誰もが吸い寄せられるように淵の手すりに向かってしまう。そこで得られるのは“モノ”ではない。雄大な自然美と、まなざしを通して一体化する時間だ。それがいかに人の心を癒すものかは、訪れる人の多さが証明している。

「お客様が山の景色に喜んでいる姿を見たり、『また来ます』と言っていただけた時が一番嬉しいですね。天気が悪くても、ガイド次第でまた足を運んでもらえるので、魅力を伝えることは大切だと思います」

新穂高ロープウェイの営業時間は季節や天候によって多少変化するが、基本的には日中だ。早朝や夜にも出入りする従業員にしか見られない、秘密の光景もあるのだろうか。

「ブロッケン現象や雲海など、珍しいと言われている現象はしょっちゅう目撃しますよ。ブロッケン現象は、私たち従業員がロープウェイに乗る時間帯によく発生するんです。見慣れすぎて、いちいち驚くこともなくなってしまいました(笑)」

新穂高の山々を訪れるのは登山家ばかりではない。麓でのんびりと森林浴を楽しむこともできる。ほぼ一年中、新穂高の景色を見続けている和田さんの思う山の魅力は、季節の変化にあるという。

「山って、春夏秋冬だけでも二十四節気だけでもなくて、一日一日の変化がすごくくっきりしてるんですよね。一日で気温が大きく下がったり上がったり、昨日見た葉っぱが今日見たらもう色づいていたり、朝起きたらいきなり山が真っ白になっていたり……。それを見ていると飽きません。疲れていても、ここの景色を見ると癒されます」

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和田さんは、進学で一時奥飛騨を離れた経験を持つ。マンガの勉強をするために岐阜市内の短大に通ったが、いつかは必ず地元に戻り、観光の仕事に就くつもりだった。

「うち、家族全員が観光業の人間なんです。家自体が、昔は観光客向けの定食屋さんをしていたので、子どもの頃からずっと、表で配膳などの手伝いをしていました。だからでしょうけど、人と関わる仕事って楽しいなとずっと思っていたし、自分が大人になって観光業に携わっている姿も想像できたんです」