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木と共に生きる
現代の名工が
滝の流れる原生林を歩く

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飛騨産業
板屋 敏夫さん

「日本の家具は、加工精度が高いんです。ひとつひとつのパーツを接続するための穴と枘を0.1ミリ単位で正確に加工するとか、パーツ同士を張り合わせるための接着剤の品質を上げるとか。もちろんそんなこだわりは、家具をぱっと見ただけではわかりません。でも、何十年も使ってくると確実に差が出てくる。そういった精度に対して、日本人は敏感なのかもしれませんね」

何十年も使ってみて初めてわかる良質さ。インターネットで安価な組み立て式家具を取り寄せ、傷んだ家具は引っ越しの度に捨てる、という生活の中では決して確かめられない価値がそこにはある。

「それから、木材の質というのは水分管理で決まるんです。山に生えているときの木というのは、水分をたくさん含んでいるわけですよね。それを製材し、乾燥させて家具用材にしていく。そのときに、一般家庭の環境に馴染む水分量にできるかどうかが生命線なんです」

木材の質は水分量で決まる――。木の家具だけが持つしっとりした感触、スチールや合成樹脂では再現できないあたたかみは、そこに含まれた水気によるものだ。そしてその水気は、ニスの隙間からも自在に出入りを繰り返す。梅雨時期には木製のタンスがふくらみ、冬期は乾燥して縮んでいく。風の通わない倉庫に閉じ込められていた椅子は傷みの進行が早くなる。

「家具も呼吸しているんです」

滝川と同じ水を吸い上げ、ひっそりと呼吸する木々の合間で板屋氏は素朴にそう語る。

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木工家具を作り続けて五十年。その間、大きな怪我をしたことは一度もないという。

「一度だけ、親指の付け根を軽く切ったことがありましたけどそのくらい。仕事がら怪我をされる人を見ましたけどね。指の先を落としてしまった人やなんか……。
私が今まで大きな怪我をしなかったのは、加工の基本を大事にしてきたからかもしれません。
怪我をしてしまった人は、どこかで基本をおろそかにしてしまった時が多いんです。
だから若い人たちには必ず基本が大切だということを教えます。
道具の使い方、機械の安全な使い方、例えば刃はこういう風についているからきれいに切れるんだとか、このような方法で加工すると怪我をするというように基本を理解してもらう。小さな道具でも大きな道具でも、原理としては同じですから」

若い職人の育成に力を入れる板屋氏は、岐阜県立木工芸術スクールの講師を勤める他、飛騨産業が運営する、飛騨職人学舎という木工学校でも後進の指導にあたることもある。